イメージの視覚化

Visualization

「僕は、練習のときでさえ、鮮明な映像をイメージせずにショットを打つことは絶対にない。最初にまず、これから打つボールをイメージする。鮮やかな緑の芝生に置いた真っ白なボールを。その次は、跳んでいくボール。球筋、角度から、着地する様子まで。そのイメージが徐々に薄くなると、今度は、さっきのシーンを現実にするショットが見えてくる」

ジャック・ニクラス(ゴルフ界のレジェンド)スポーツ界では、このジャック・ニクラスの言葉はよく引用されており、イギリスのサッカークラブ、ブラックバーン・ローヴァーズのロッカールームの壁には大文字で書かれている。現実の勝敗を分ける「本番力」をつけるためにはどうすればいいか。

準備段階について説明したが、「本番でのパフォーマンスの実践」へとテーマが移る。その習得のために、以下の三つのテクニックについて説明したい。

1イメージの視覚化

2しぐさや外見の活用

3「モード」イメージの視覚化は、心のつぶやきと同じく、ツールのひとつである。スポーツ心理学者が意識的に「視覚化」を利用しだしたのは一九六〇年代初めだが、ビジネスの世界では、視覚化が多大な恩恵をもたらすことは、まだほとんど知られていない。イメージの視覚化とは、文字どおり、何らかの心象(イメージ)を思い描くことだ。考えるだけではなく、頭のなかで映画を上映するようようにはっきりとイメージする。

想像力と集中力が必要であり、誰でもうまくできる作業ではない。試合前のダウンヒルのスキー選手は、山頂に立ち、これから下るルートをイメージする。テレビで見たことがあるだろうか。眼を閉じて、前傾の姿勢をつくり、小刻みに身体を動かしながら、深く集中している。ルートを細かく想像し、どう攻めるかを考えているのだ。「心のカメラ」を使って、独自の主観的な眼でルートを見る選手もいるし、テレビの観客のような客観的な視点を使う選手もいる。

最適なターンをイメージし、ルートをどう攻めるかを考える。自分の姿についても、外からの「カメラ」を使って、姿勢や細かいターンを決めるさまをイメージする。テコンドーやフェンシング、ボクシング、クロスカントリースキーなどの選手は、使いたいテクニックについてもイメージできる。

共通しているのは、自分が望むパフォーマンスをイメージすることだ。ダウンヒルのスキー選手は最適なルートをイメージする。クロスカントリーの選手は最適なコースをイメージする。イメージの視覚化は、効果的なトレーニングになりうることが、スウェーデンのある実験で証明されている。同レベルのスポーツ選手を二つのグループに分け、片方のグループに肉体的なトレーニングを、もう片方にイメージトレーニングをさせた。

すると、両方のグループのパフォーマンスが同等に向上したのだ。アンデゥン・ミーシャは著書「あなたの内なる力を探せ」(FindYourInnerForce)で、同様の実験について書いている。試験者を三つのグループに分ける。バスケットボールのフリースローを練習していないグループ、毎日フリースローの練習をしたグループ、実際に練習をしていないが、フリースローをイメージトレーニングしたグループ。三か月後、練習なしのグループは、スコアが上がらなかった。毎日練習したグループは、スコアが三六パーセント上昇した。

ここまでは当然の結果だが、なんとボールをネットに入れる想像をしただけのグループも、一八パーセントもスコアが伸びたのだ。少し練習すれば、イメージをすばやく視覚化できるようになってくる。上手になってきたら、視覚以外の感覚も加えてみよう。

・大会中に聞こえてくるのは、どんな音?

・考えていること、感じていること、嗅覚、味覚は?

・いい結果を得るためには、全体としてどんな体験ができればいい?

イメージトレーニングは、スポーツの試合で絶大な効果を発揮するのはもちろん、日常生活にも活用することができる。今日の一日をどう過ごしたいか、どんな日になってほしいかをイメージするのだ。前もって心の眼で見ておくと、はるかに楽に実践できるものだ。トップアスリートがイメージトレーニングを欠かさない本当の理由今私は、アメリカのトーナメントまであと一週間を切った優秀なプロゴルファーに、スカイプを通じて指示を出している。

イメージを視覚化するときは、トーナメント当日に加えて、二、三日前にも必ずイメージしてもらう。大会直前の数日間の印象や体験が、集中力を台無しにすることがあるからだ。オリンピックや世界大会に初出場した人に、話を聞いてみればいい。規模の大きさに圧倒され、やるべきことは極めてシンプルだということを忘れそうになるのだ。

実際には、何度も予行演習をし、完全に習得した内容を再現するだけでいい。いつもと同じ事をするだけ。違うのは環境だ。だから、環境に慣れておく必要がある。環境に前もってなじんでいれば、精神的なエネルギーが浪費されずにすむので、やるべきことに集中できる。以下は、視覚化しておくイメージの例である。

「空港の広さや様子は?」「どの便に乗るのか?同乗者は?機内で仮眠を取る?」「宿泊するホテルは?ホームページを見て、前もって雰囲気を把握できる?大会前夜はどんなふうに過ごしたい?」「大会初日の朝、どんな気分で目覚めたい?」「朝食は何を食べる?食事中は何を考えている?」「ウォーミングアップをする場所は?他に誰がいる?人の顔が思い浮かぶ?看板はある?」「どんな気分でウォーミングアップをしたい?どうすればそんな気分になれる?」「当日のコースを繰り返しイメージすること。写真や動画を見て、熟知する。あらゆる天候下の状況を思い浮かべる」「大会が始まったら、自分は誰?何を考えている?どんな気分でいるべき?と考える」「着ている服は?」「ギャラリーの数は多い?声がうるさい?他に雑音が聞こえる?」「あなたが打つ、すべてのショットをイメージすること。完璧なラウンドと、自分の希望どおりの結果にならない状況を、できる限りイメージする。どんなふうに反応する?どんな気分になりたい?何が見える?そのあと、望みどおりのラウンドをふたたび想像しよう」「ショットを打つ直前に、何に集中したいかを、コースごとにイメージする。コースを移動するときは?待ち時間には?ミスショットの後の気分をどうやって立て直す?何が見える?」「第一ラウンド中に起こるさまざまな出来事にどう対処する?自分がリードしている場合は?相手がリードしている場合は?悪い局面をどう抜け出す?」

イメージの視覚化とは、これから起こることを予想する作業である。つまり、本番の前に、「経験済み」の境地に到達しておくことだ。次の展開への心構えがあれば、最適なパフォーマンスができる可能性が大きく増えるだろう。

おすすめの記事